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「、」 「なあに?」
彼女は嬉しそうに笑いながらそういった。暖かいその瞳はゆるりとゆれて。
俺の誕生日の4日後。其れが彼女の誕生日だった。近い、だの近過ぎると私の誕生日が忘れられてしまうとか何度も何度も言われ続けた彼女の誕生日は思いの他覚えてしまっていた。丁度付き合い始めて半年ぐらい。如何してと付き合い始めたのだろう、と考えると余り思いつかない。ただ彼女の傍に居ると嫌な気分さえも消え去っていく気がしたから。実際結構長い付き合いだったけれど俺達の間でそういう関係にならかったから俺達はただの関係で続いていた。しょんなことから付き合い始めて今に至る。特に変わらないと思っていたけれど付き合ったら付き合った出大変だ。
まず気になることが多すぎた。今まで気にしなかったこと、例えばどんな男と話すのかどんな女と話すのかが気になって仕方が無くなる。特に男は気になった。誰にでも話しかけられれば話すタイプのは男に話しかけられても特に邪険にしないし、ましてや俺の彼女だと分からない頃は割りと好評は良かったようだ(顔だとかそんなのよりもまずは誰にも公平なのが良い、そんな話を聴いていた)誕生日だってめでとう、ぐらい言っていた。俺の誕生日の4日先、そう考えると分かりやすかったし俺達はそれぐらい仲が良かった。
好きだと言葉にすれば崩れてしまう、そんな何処かの漫画やドラマみたいな関係じゃなく俺達は普通に好きだと言い合い付き合い始めた。関係を変えるなんて彼女と俺にとってはあっけない。好きだと思えば好きだというし、付き合えないなら付き合わない、そういえば良いのだから。
誕生日に何をしよう、そう考えた。俺の誕生日には祝いの言葉をくれたし休日だったからゆっくり二人で過ごせた。だから俺はそれを俺は返したい、と思ったのにも関わらず本当にタイミングは悪い。休日だったら良いものの平日で、普段教室でと話せる時間は少ないから予定はメールを送りあうことになる。別に公認で認められていないわけではないけれど、流石に騒ぎ立てられるのは面倒くさいし、第一彼女にも人間関係があることぐらい俺には分かっているから余計なのかも知れない。俺はそっと余計の詰まったメールを送信して携帯を閉じた。
「悪いな」 「景吾の所為じゃないよ」 「…誕生日、なのにな」 「覚えてたの?」 「当たり前だろ」
予定はこうだった。
行き成り生徒会の仕事が入った。今日中にしないといけない、今日は何時ごろまで一緒に居れるか、だ。本当に教師も教師だ。人の恋路に邪魔をするな、と言いたくなる口を押さえ込んで俺は生徒会室でプリントに向かい合う。はそっと自分の俺のプリントを覗き込みながらたまに意見を言う。それが何時も光景だし違和感なんて無い。だけど、今日だけはこんなことはしたくなかった。
「生徒会って大変だね」 「…ああ」 「何か手伝おうか?」 「良い」 「良いの?二人の方が早く終わるよ」 「誕生日だろ」 「拘るね」 「悪いかよ」 「ううん、嬉しい。お母さんに今日景吾とすごすってメールいれとく」
「良いのか?お義母さんもの誕生日祝うんだろ?」 「朝言われたんだ。景吾くんとすごすの?って。だから大丈夫」
へらりと擬音語が似合うような笑顔で彼女は言い切るとそっと携帯をカチカチと打ち始める。その姿を目を細めながら見据えた。本当に彼女はわがままを言わない。「私の誕生日なんだから私のことだけ考えてよ」なんて言われ続けた恋愛関係をしてきた俺にとって、の対応は思わず俺には驚かされることばっかりだったから。から目を逸らしてプリントへと目を向ける。なるべく早く終わらせようとシャーペンを揺らすと、が俺の隣の席へと腰を下ろす。
「ゆっくりで良いんだよ?」 「何言ってんだよ。早く終えるに決まってんだろ」 「無理しなくて良いのに」 「無理させろよ。…俺は、祝いたかったんだよ。二人で」 「…うん。でもね、凄く嬉しいよ。景吾が今傍に居てくれること」 「本当に、お前は欲がねぇな」
「あるよー、だって私、景吾の傍にいたいんだもん」
そう言葉にすると席を立ち、窓へと近付いて窓を開ける。ひんやりした風が入ってくるとは何処か嬉しそうに「秋だねぇ」と小さく笑いながら言い放つ。
「私と、景吾の季節だね」
そんな風に言葉を紡ぐとはまた小さく笑みを浮かべる。何がそんなにも嬉しいのだろう、楽しいのだろう。は俺にそういうことを言わない。何が不安なのか、何が嫌なのか、俺のことを責めるような態度もとらない。正直に甘えてくれた方が俺がどれだけ安心するか。…違う、彼女が俺の傍に居ることがそのことが多分、彼女にとっては一番嬉しいことなのかも知れない。そうだ、きっと、
「の傍に居るのがすきなんだよ」 「え?」
「の」 「うん」 「傍にいたいって思ったから好きだって言ったんだ」 「そっか」
「…なあ、」 「何?」
「これが終わったらの誕生日祝おうぜ」 「ありがとう、景吾」 「お前はあんなにも祝ってくれたからな」 「良いのに。そんなこと」
「俺の気が済まねぇんだよ」
彼女はまた笑いながら「じゃあお願いしますと」言った。ゆらゆらと髪の毛が揺れて風が吹く。秋の風は涼しく俺の頬を撫でる。名前を呼べば、傍に居る彼女が俺は如何しようも無いくらいに愛しく思ってしまうのは、きっと彼女の醸し出す雰囲気があまりにもいとおしいから。
「」

「ねぇ、景吾私思うんだけどね」 「ああ?」 「私の誕生日はあんなんだったのに私はここまでしてもらって良いのかな」 「あんなん、じゃねぇだろ。俺にとっては最高の誕生日だったんだ」 「そうかなあ」 「良いから早く来いよ。腹減ってんだろ」 「今行くよ。ねぇ、景吾」 「うん?」
「ありがとう」
ふわりと触れるスカートを見ながらそっと俺は彼女の口付けを落とした。
[ ヨルヒトリ様 ]
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